企業や自治体、学校などがWebサイトを構築する際、最初に悩むのが「どのCMS(コンテンツ管理システム)を選ぶべきか?」という点です。特に日本国内では「WordPress」と「Movable Type(MT)」が2大選択肢となるケースが多く、それぞれに長所と短所があります。どちらも高機能でありながら、運用体制やセキュリティ、拡張性、ライセンス費用など多くの観点で違いがあります。
本記事では、2025年最新の情報をもとに、WordPressとMovable Typeを6つの観点で徹底比較し、ユースケース別にどちらが適しているかを判断できるよう構成しました。失敗しないCMS選びのために、ぜひ最後までご一読ください。
第1章:CMS選定の基礎知識と市場シェアの現状
CMS選定で重要なのは「将来性」と「体制との相性」
CMSは一度導入すると数年〜10年単位で使い続ける基幹システムです。そのため初期コストや導入しやすさだけでなく、長期的な保守性・セキュリティ・人材確保のしやすさを考慮する必要があります。特にWeb運用チームの構成や外部パートナーの有無により、適したCMSは変わってきます。
世界シェアで見るWordPressの圧倒的存在感
2025年時点で、WordPressは全世界のWebサイトの43.3%、CMS導入サイトのうち約60.9%のシェアを持ち、名実ともに世界のスタンダードです。海外製でありながら日本語対応も進んでおり、導入事例も豊富。オープンソースで無料のため、開発の初期ハードルが低い点も大きな魅力です。
国内市場ではMovable Typeも依然として一定の支持
一方、日本国内では企業のコーポレートサイト・官公庁・教育機関など、静的配信+セキュリティ重視のWebサイトにおいてMovable Type(MT)の導入も根強くあります。特に「MTクラウド」の存在により、SaaS型で安全に運用できる環境が整備されてきました。
ただしシェアで言えば、MTは国内でもWordPressに大きく水をあけられており、CMSとしての勢いはWordPressが圧倒的です。
将来性と体制への適合性が選定のカギ
結論として、CMS選定においては「自社体制との相性」×「将来の運用に対する見通し」が極めて重要です。どちらが優れているかという議論よりも、どちらが自社に合っているかを見極める視点が必要です。
第2章:初期費用とライセンス・保守コストの違い
CMS選定時に最も現実的な判断材料となるのが、ライセンス・保守・拡張機能を含めた総コストです。単に導入時の費用だけでなく、継続的なアップデートやトラブル対応、必要な人員数まで含めて考える必要があります。ここではWordPressとMovable Typeのコスト構造を具体的に比較し、予算面で見落としがちなポイントまで掘り下げます。
WordPressは「無料」だけでは終わらない。実質コストの実態とは?
WordPressはオープンソースで、ライセンス費用が完全に無料という大きなメリットがあります。サーバーにインストールさえすれば、誰でも自由に使え、企業サイトからメディアサイト、ECサイトまで幅広く構築できます。
しかし、実務では「無料で済む」というわけではありません。
有料テーマの導入(5,000円〜20,000円)
主要プラグインの年間契約(¥5,000〜30,000/年)
セキュリティ強化のためのWAF契約やバックアップサービス
サイト保守を外注する場合の月額費用(¥10,000〜50,000/月)
例として、以下のようなプラグインが業務用では標準的に用いられます:
プラグイン名 | 年額目安 | 用途 |
---|---|---|
Wordfence Premium | 年/$149(約22,000円) | セキュリティ対策 |
WP Rocket | 年/$59 ~(約8,700円 ~) | 表示高速化 |
Yoast SEO Premium | 年/$118.80(約17,000円) | SEO支援 |
ACF Pro | 年/$49 ~(約7,200円 ~) | カスタムフィールド |
Elementor Pro | 年/約$59〜(約8,700円 ~) | 高度なレイアウト編 |
※2025年7月現在
これらを複数組み合わせて初めて、企業サイトに必要な機能と安定性が確保されます。つまり「無料」なのはあくまで出発点であり、運用に乗せるためには多層的な投資が不可欠です。
Movable Typeは有償ライセンス型。MTクラウドなら月額で利用可
一方、Movable Typeは商用ライセンス制を採用しており、企業・法人で使用するにはライセンス購入が前提です。
Movable Type 8 のライセンス体系(2025年公式価格)
ソフトウェア版ライセンス(オンプレミス)
価格:税込 99,000円/年
内容:1年間のメンテナンス(バージョンアップ+サポート)込み
2年目以降の年間メンテナンス費:33,000円(税込)
クラウド版(MTクラウド)
利用料:月額 5,500円〜(税込)
内容:CMS本体・サーバー環境・メンテナンス・サポート・アップデートなどすべて込み
特徴:オンプレ構築やミドルウェア管理の手間が不要。安心のクラウド型SaaS提供。
※価格やプランは導入形態・規模・サポート内容により異なる場合があります。最新情報はシックス・アパート株式会社の公式サイトをご確認ください。
WordPressは無料で導入できる点が魅力ですが、運用に応じてプラグインの購入や保守対応などの費用が徐々に発生していく傾向があります。
一方、Movable Typeは導入時点でライセンスやサポート費用が明確に設定されているため、あらかじめ必要なコストを把握しやすいという特徴があります。
また、MTクラウドでは以下がパッケージ化されています:
ミドルウェアやサーバーの保守
脆弱性パッチ適用
バージョンアップ作業
バックアップ自動化
商用サポート付き(メール・電話対応)
このため、CMSの構築と運用をすべて1つのサービスで完結させたい場合には、MTクラウドの方が社内業務としてはシンプルです。
コスト比較:WordPressとMTクラウド、どちらが本当にコストパフォーマンスが良いか?
項目 | WordPress | MTクラウド(ライトプラン) |
---|---|---|
初期CMS構築費 | ¥200,000〜(テーマ設計・構築・カスタマイズ含む) | ¥400,000〜(静的設計・テンプレート構築・公開設計含む) |
年間維持費(保守・プラグイン・更新管理など) | ¥120,000〜(保守契約・有料プラグイン・バックアップ/WAF含む) | ¥66,000〜(¥5,500×12ヶ月 ※WAF・アップデート・サポート込) |
※サーバー費用や特殊要件による追加構築費は含まれていません。保守形態や対応範囲によっても変動します。
一見するとWordPressの方が初期コスト・維持費ともに安く見えるかもしれませんが、それは「最低限の導入」の場合の話です。
たとえば、
オリジナルデザインやブランド価値を重視したUI設計
コンテンツ戦略やSEO設計を組み込んだ制作
セキュリティ体制の強化(WAF・バックアップ・監視など)
といった“企業サイトとしての本格運用”を見据えた場合、WordPressでも100万円以上の初期費用が必要になることは珍しくありません。
一方、MTクラウドのライトプランはコア機能がすでに用意されているため、サーバー・WAF・セキュリティパッチ適用といった基盤部分を委託できる点が魅力です。ただし、最小構成ではnginx環境であることから、Apache前提の機能(.htaccessの活用や特定モジュール)などが制限されるケースもあります。要件によっては、上位プランの選定やカスタマイズが必要です。
どちらがベストかは、要件次第
WordPressが「自由度と選択肢の多さ」で優れる一方、Movable Typeクラウドは「安定性とセキュリティの運用負荷軽減」で評価されます。
ただし、どちらのCMSでも、アップデートに伴うテンプレート崩れや動作不具合が起こる可能性があるため、適切な保守体制は不可欠です。
自社にエンジニアがいない/セキュリティと保守を外部委託したい場合、MTクラウドはインフラや本体アップデートが自動化されているため、一定の運用負担を軽減できます。
一方で、デザインや機能に独自性が必要だったり、マーケ施策との連携が求められる場合は、WordPressの拡張性が強みになります。
つまり、単純な金額比較ではなく、「サイトに求める要件」「誰がどの範囲まで保守するか」「5年後まで見据えた拡張性・継続性」をもとにCMSを選定することが重要です。
第3章:機能拡張性と開発エコシステムの違い
CMSを選ぶ際に、「将来的に機能を追加したい」「業務に合わせてカスタマイズしたい」というニーズは非常に多くあります。ここでは、WordPressとMovable Type(以下、MT)における機能拡張の柔軟性、エコシステム(開発者・プラグイン・サポート体制)について比較し、拡張性という観点でどちらに優位性があるかを明らかにします。
WordPressは“プラグインの宝庫”。だが落とし穴もある
WordPressは世界中で使われているため、10万種類以上のプラグインが存在し、非エンジニアでも簡単に高機能なサイトを構築できる点が最大の魅力です。
SEO対策:Yoast SEO、All in One SEOなど
セキュリティ:Wordfence、iThemes Security
表示高速化:WP Rocket、LiteSpeed Cache
フォーム作成:Contact Form 7、WPForms
ビルダー系:Elementor、Divi、Gutenberg
導入は管理画面からクリックひとつで完了し、無料から有料まで幅広く揃っています。
ただし“プラグイン依存”は中長期的リスクにも
便利な一方で、プラグインが多すぎることによる弊害も無視できません。
競合・干渉による不具合発生
アップデートに伴う互換性問題
開発終了(放置)による脆弱性リスク
表示速度の悪化(JavaScript/CSSの重複)
特に業務用サイトでは、プラグインの品質や開発元の信頼性を見極めたうえで、必要最小限に絞り込む方針が必須です。
参考リンク:WordPressセキュリティプラグイン徹底比較
Movable Typeは「堅実な拡張型」。APIやテンプレートで差を出す
一方、MTは「プラグインで何でも可能」という思想ではなく、テンプレートベース+独自開発に適した構造となっています。
プラグインは公式配布+プロフェッショナルパックに限定
外部システムとの連携は Data API を利用
テンプレートタグで柔軟にレイアウト変更可能
フルスクラッチでの機能実装に適している
MTは「最初から全部入り」ではなく、ベース機能を堅実に使いつつ、必要な機能を安全に開発で追加していく構造です。そのため、社内にエンジニアがいる場合は柔軟な実装や将来的な拡張が可能で、プラグイン競合のような混乱が起きにくい点も特長です。
商用サポートと開発元の一貫性
Movable Typeは、Six Apart社が商用ライセンス提供と同時に、商用プラグインやテンプレート構築支援も行っています。つまり、開発〜拡張〜保守まで一貫して公式が関与しており、信頼性と長期運用の安定性が高いことも、業務用途では魅力です。
エコシステム比較:WordPressは「選択肢が多い」、Movable Typeは「安定・堅実な構造」
比較ポイント | WordPress | Movable Type |
---|---|---|
プラグインの数 | 非常に多い(10万種類以上) 自由度が高くすぐに機能追加できる | 少数精鋭(数百種類) 品質が担保されており安全 |
開発者コミュニティ | 世界中に利用者が多く、困ったときの情報も豊富 | 日本国内で実績豊富。 企業・官公庁サイト向けノウハウが集まっている |
マニュアル・ドキュメント | 公式・非公式ともに情報量が多いが、内容の質はバラバラ | 商用向けに整備された公式マニュアルが充実。体系的で信頼性が高い |
カスタマイズのしやすさ | プラグインを使えば手軽に拡張可能 (ただし依存度が高くなる) | テンプレートやAPIを使った コードベースの拡張。安定して長く使える |
トラブルの起きやすさ | プラグイン同士の相性や開発停止による ブラックボックス化が起きやすい | プラグインが少なく品質が一定なので、 動作が安定しやすい |
どちらを選ぶべき?「技術体制」に合わせて判断しよう
CMSの「拡張しやすさ」や「自由度」はとても重要ですが、それが本当に運用チームに合っているかどうかが選定のポイントです。
社内にCMSの知識があまりなく、制作や保守を外注する予定の企業
→ WordPress が適しています。選べる制作会社が多く、プラグインも豊富で実装の自由度が高いためです。自社内にエンジニアがいて、しっかりとした構造で安定した運用をしたい場合
→ Movable Type が向いています。WordPressと比較すると拡張性は高くありませんが、コードを把握しやすく、長期運用に強みがあります。
結論:自由に広く拡張したいならWordPress。堅実で安定した設計を求めるならMovable Type。
WordPressは「とにかく選択肢が多く、すぐに何でもできる」CMS。
ただし、そのぶん自己管理・トラブル対応の負担が大きくなる可能性もあります。Movable Typeは「できることは限られるが、安全で安定して使える」CMS。
比較的Webサイトを拡張せずに、セキュリティリスクを抑えたい企業に最適です。
CMSの選定は、「使えるか」よりも「使い続けられるか」を基準に考えましょう。
第4章:セキュリティ対策と運用負荷の違い
CMSを選定する際、見落とされがちでありながら最重要なのが「セキュリティ」と「保守運用負荷」です。特にWordPressとMovable Typeはセキュリティ構造そのものが異なるため、同じレベルの安全性を保つためのコストや手間が大きく異なります。この章では、攻撃対象となるリスクの違いや、具体的な運用負荷について詳しく解説します。
WordPressは“最大のCMS”だからこそ狙われやすいが、正しい保守で防御も可能
WordPressは世界中で最も広く使われているCMSであることから、攻撃者にとって第一の標的となりやすいのが実情です。実際、セキュリティベンダーPatchstackの調査によると、2023年に報告されたWordPress関連の脆弱性のうち、97%がプラグインに起因しており、WordPress本体の脆弱性は0.2%未満と非常に少ないことが明らかになっています。
主なセキュリティリスク
脆弱なプラグインやテーマを通じた攻撃(例:クロスサイトスクリプティングやSQLインジェクション、リモートコード実行など)
ログインフォームへの総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)
WordPress本体やプラグインの更新を怠ることによるゼロデイ攻撃のリスク
XML-RPC APIを利用したDDoS攻撃や認証バイパス
多層的なセキュリティ対策の例
以下のようなセキュリティ対策を組み合わせることで、WordPressサイトの安全性は大きく向上します。
WordfenceやiThemes Securityなどのセキュリティプラグインを導入し、不正アクセスの検知やログイン制限を行う
**CloudflareやSiteGuardといったWAF(Webアプリケーションファイアウォール)**を使って、サーバーレベルでの防御を強化する
UpdraftPlusなどのバックアップツールで定期的なバックアップを取得し、万が一の復旧に備える
プラグインの選定と棚卸しを定期的に行い、不要または更新が止まったプラグインは使用しない
アップデートはテスト環境で事前に動作確認を行い、本番環境への適用は慎重に進める
運用体制がセキュリティレベルを決める
確かにWordPressは脆弱性が報告されやすいCMSですが、それは利用者が多く、攻撃対象として注目されやすいという裏返しでもあります。しかし、定期的なアップデートやセキュリティ対策、多層的な防御をしっかりと実施すれば、WordPressであっても非常に高いセキュリティ水準を維持することが可能です。
大切なのは「CMSの性能」ではなく「それを守る体制があるかどうか」です。WPセンターのようにWordPress保守を専門とする会社がしっかりと運用を支援すれば、安心して長期的に活用できるCMSであることは間違いありません。
Movable Typeは「静的配信」と「構造分離」で攻撃対象を減らす
一方、Movable Typeは構造そのものがセキュア設計です。最大の特徴は、公開サイトが「静的HTML」で構成される点にあります。
公開ディレクトリと管理画面が完全に分離
HTML生成後はCMSがサーバーに介在しない(攻撃対象が無い)
静的ファイルをS3などにオフロードすることでさらに安全性向上
MTクラウド利用で脆弱性修正・保守はベンダー対応
この構造により、外部から狙われるリスクが極端に低いのがMovable Typeの強みです。
また、CMSにログインする頻度もWordPressに比べて少なく済むため、「ID・パスワード管理」や「2段階認証設定」など、ログイン系のセキュリティリスクも減らせるという利点があります。
運用面での違い:「守る」ために誰が動くか?
観点 | WordPress | Movable Type |
---|---|---|
セキュリティリスク | 高め(特にプラグイン由来) | 構造上リスクを下げやすい(公開側と管理側の分離) |
アップデート頻度 | 高め(コア・テーマ・プラグインが月数回更新) | 少(年2〜3回程度) |
保守の手間 | 手動アップデート・複数の更新元に対応が必要 | MTクラウドならコアアップデートは自動。ただしカスタムテンプレート修正は手動対応が必要 |
監視・通知対応 | 自社または外注の体制が必要 | クラウド運用ならSLAサポート・稼働監視が含まれる場合もある |
一方、Movable Type(特にMTクラウド)は、セキュリティパッチやバージョンアップがクラウド側で管理されるため、CMS本体の保守にかかる手間は削減されます。ただし、テンプレートやテーマを独自カスタマイズしている場合は、バージョンアップ時にレイアウト崩れや機能不整合が生じる可能性もあり、その修正作業は別途対応・費用が発生します。
結論:どちらも「ノーメンテナンス」は存在しない
WordPressは「動的で自由な分、守る責任も大きいCMS」
Movable Typeは「構造的に安全性は高いが、カスタム箇所の更新管理が必要なCMS」
CMSにおける保守のコストは、「アップデート回数」だけではなく、「カスタマイズの深さ」によっても変動します。
どちらのCMSを選ぶ場合でも、設計・構築段階で将来的な更新コストを見越した実装設計を行うことが、長期的な運用成功の鍵です。
第5章:表示速度とスケーラビリティの実力差
Webサイトの表示速度は、ユーザー体験だけでなく、SEOやCVR(コンバージョン率)にも直結する重要な要素です。また、アクセス数の急増や記事数の増加に耐えられるかといった「スケーラビリティ(拡張性)」もCMS選定の決め手になります。この章では、WordPressとMovable Type(MT)がそれぞれどのようにパフォーマンス面に対応しているかを比較し、目的に応じた使い分けのヒントを提示します。
WordPressは動的生成が基本。キャッシュ戦略が生命線
WordPressはPHPとMySQLを使ってページを動的に生成するCMSです。つまり、ユーザーがページを開くたびに、サーバー側でデータベースを読み込み、テンプレートを組み合わせてHTMLを作り出します。
この仕組みのメリットは、リアルタイム性と柔軟性。記事の更新やユーザーの条件に応じた出力が簡単に行えます。
しかし、その一方で…
サーバー負荷が高くなりやすい
アクセス集中時に応答遅延やエラーが発生しやすい
GoogleのPageSpeed Insightsで評価が下がりがち
キャッシュプラグインによる高速化は必須
これらの問題に対応するために、以下のようなキャッシュ系プラグインが広く使われています:
WP Rocket:静的HTMLキャッシュ生成+CSS/JS最適化
LiteSpeed Cache:LiteSpeedサーバー向け高速化
W3 Total Cache:DBキャッシュやCDN連携も可能
これらを適切に設定すれば、Google Core Web Vitals(LCP/FID/CLS)にも対応可能です。ただし、キャッシュの整合性管理やトラブル対応には知識が求められ、更新作業のたびにキャッシュクリアが必要になるなど運用面での煩雑さもあります。
Movable Typeは静的HTMLを出力。高速×低負荷が魅力
対してMovable Typeは、コンテンツ公開時にあらかじめ静的なHTMLファイルを生成する方式です。つまり、ページ閲覧時にはサーバー上のHTMLを直接表示するだけなので、PHPやDBを経由する必要がなく、圧倒的に高速かつ軽量です。
特に有利なケース
官公庁・学校など安定重視のWebサイト
大量アクセスが予測されるキャンペーンサイト
インフラ費用を抑えたい中小企業
さらに静的ファイルは、Amazon S3やCDNにオフロードすることで、トラフィックに耐えるスケーラビリティを実現できます。これにより、VPSや共用サーバーでも大手並みの配信速度を確保することが可能です。
ただし、再構築処理はスケーラビリティ上の壁に
Movable Typeの課題としては、サイト規模が大きくなると「全ページ再構築」に時間がかかるという点が挙げられます。
ページ数が数千〜数万になると、再構築に10分以上かかることも
複雑なテンプレート構造や条件分岐があると、さらに処理時間が増加
編集作業時に「更新完了まで待つ」という運用ストレス
これに対しては、テンプレートの最適化やインクリメンタルビルド設定で対応可能ですが、構築時にパフォーマンス設計が求められます。
パフォーマンス比較まとめ
項目 | WordPress | Movable Type |
---|---|---|
表示速度(初期状態) | 動的生成ゆえ初回表示はやや遅めだが、キャッシュ活用で高速化可能 | 静的HTML出力のため、初期から高速表示 |
キャッシュ対応 | 標準ではプラグイン導入が必要(例:WP Super Cache、LiteSpeed Cache) | 静的生成のため基本不要 |
大量アクセス対応 | CDNやWAFの組み合わせにより柔軟なスケーリングが可能 | HTML+CDN構成により軽量・高速な配信が可能 |
コンテンツ更新の反映 | 即時に反映(自動保存・リビジョンも標準装備) | 再構築が必要(非同期再構築や差分出力で対応可能) |
初心者向け調整 | 機能が豊富ゆえ初期設定はやや複雑だが、ノーコード管理も可能 | 構造がシンプルで導入初期は扱いやすいが、柔軟性は限定的 |
結論:リアルタイム性を取るか、配信安定性を取るか
WordPressは、頻繁な情報発信や更新が求められるメディアサイト・マーケティング施策重視型サイトに最適です。プラグインの活用や構成次第で、動的コンテンツも高速かつ柔軟に展開できます。
一方、Movable Typeは、官公庁・大学・大手企業などの安定性重視のWebサイトに向いています。静的ファイルによる配信により、サーバー負荷を抑えつつ大量アクセスにも安定して対応可能です。
近年は特にページ表示速度がSEOやUXに大きな影響を与えるようになっており、「高速で落ちないサイト」は成果にも直結します。
そのため、CMSを選ぶ際は「知っているかどうか」や「費用の安さ」だけで判断せず、サイトの運用スタイル(更新頻度や配信内容)と求められるパフォーマンス要件(表示速度・安定性)を照らし合わせた上で選定することが重要です。
第6章:導入目的別の最適CMS選定フロー
ここまでWordPressとMovable Type(MT)の違いを各視点で詳しく比較してきましたが、最も重要なのは、「自社の目的や体制に合ったCMSを選ぶこと」です。CMS選定に絶対的な正解はありません。
この章では、目的・体制・予算などからCMSを導き出す判断基準を提示し、最終的にどちらを選べば良いかが自分で分かるように構成します。
「目的」と「運用体制」のマッチングが鍵
CMSの機能やコストも重要ですが、それ以上に大切なのが、自社のWeb運用スタイルと体制にマッチしているかどうかです。
頻繁な更新が必要か? → リアルタイム性が重要
セキュリティリスクを最小限に抑えたいか? → 構造的に堅牢な設計が望ましい
社内にWeb運用の専門人材はいるか? → 内製か外注か
トラブル時の保守体制はどうするか? → サポートあり or 自力対応
このように、導入時よりも「日々の運用」に目を向けた判断基準が重要です。
判断フローチャート:自社に最適なCMSはどっち?
以下のフローチャートに沿って、あなたの組織にとって最適なCMSを確認してみましょう。
それぞれの選択肢には、保守や運用体制まで含めた視点が重要です。
Q1. 社内にWordPressやPHPに詳しい人がいるか?
→ YES:WordPressへ(自社運用でコストを抑えられます)
→ NO:次の質問へ
Q2. 外部アクセスを極力制限した構成にしたい、またはセキュリティポリシーが厳しい?
→ YES:Movable Typeへ(静的HTML出力・公開と管理のドメイン分離などに対応)
→ NO:次の質問へ
Q3. サイトの更新頻度は高いか?(週に2回以上)
→ YES:WordPressへ(ブロックエディタで誰でも簡単更新が可能)
→ NO:次の質問へ
Q4. 外注先にCMS保守・開発費用を年10万円以上かけられるか?
→ NO:Movable Type(MTクラウドの自動保守プラン)も選択肢に
→ YES:WordPress(WPセンターなら月額4万円で保守・セキュリティ対策・運用支援をフル対応)
Q5. ページ数が多く、大量アクセスが予想されるサイトか?
→ YES:Movable Type(静的HTML+CDNでサーバー負荷を最小化)を検討
→ NO:WordPressでも高速化対策を講じれば十分対応可能
補足:
WordPressは適切な保守と運用が前提ですが、プロに委託することでセキュリティも安定性も担保できます。
特にWPセンターのように月額定額で対応範囲が明確な保守サービスがある場合、社内にエンジニアがいなくても十分な運用が可能です。
一方、Movable Type(クラウド型)は初期構築さえ済めば、システム側の自動保守により運用負担を抑えられるのが魅力です。ただし、デザイン改修やテンプレート更新時はWordPressと同様、専門的対応が必要となる場面もあります。
このように、CMS選定は「誰が運用するか」「どこまで任せられるか」という観点も含めて、長期視点で検討するのが最も重要です。
よくある失敗パターンとその回避法
ケース1:WordPressで更新が簡単と聞いたが、不具合対応ができず放置
問題点:自動更新でプラグインが壊れ、復旧できなかった
対策:保守サービスやバックアップ体制を導入すべきだった
ケース2:Movable Typeで安心と思っていたが、更新作業が遅くなった
問題点:再構築に時間がかかり、複数担当者の同時作業が困難
対策:テンプレート設計をシンプルに、作業フローを分業化
ケース3:初期費用の安さだけでCMSを選び、結果的に再構築コストが膨らんだ
問題点:「無料だから」とWordPressを選択したが、保守体制が整っていなかったために不具合やセキュリティ問題が積み重なり、結果として再構築を余儀なくされた。初期の構築コストは抑えられたものの、運用段階での手間や外注費が想定を超えてしまった。
対策:CMSを選定する際は、初期費用だけでなく、保守・セキュリティ対応・運用体制も含めた「TCO(Total Cost of Ownership/総保有コスト)」で比較検討することが重要。
ケース4:Movable Typeは「保守不要」と思っていたが、バージョンアップで予想外のコストに
- 問題点:クラウド版MTであっても、テンプレートやカスタマイズ部分の互換性により、バージョンアップ後にレイアウト崩れが発生。修正費用が予想以上にかかった。
- 対策:Movable Typeでもテンプレートの設計や更新フローには継続的な保守体制が必要。設計段階から将来のアップデートを見据えた構築方針にしておくことが重要。
選定に迷ったら、まずは専門家に相談を
WordPressもMovable Typeも、それぞれの目的においては非常に優れたCMSです。重要なのは「流行」や「他社が使っているから」ではなく、自社の戦略・体制・リスク許容度に合ったCMSを選ぶこと。
CMSを選ぶ際、多くの企業が「流行っているから」「制作会社に勧められたから」といった理由で導入を進めてしまい、後から「保守が難しい」「思ったより運用負荷が高い」といった課題に直面します。
だからこそ、CMSを選定する最初の段階で、保守を見据えた設計ができる保守会社に相談することが重要です。